コラム 『外国ルーツの若者の居場所「Rainbowスペース」』 【Rainbowスペースの誕生】 「ここに綴られているのは私たち自身の姿だ」。Rainbowスペース(後述)に集った若者たちは全員が声を上げて涙を流した。中区の外国人集住地域の公立中学校を卒業した A君は、中学2年生のときに親の都合で中国から来日した。日本語能力ゼロでの編入だったこともあり、環境の激変に押し潰されそうになりながらも、母語の中国語で自らの体験を 小説に綴っていた。  一般的に外国ルーツの中学生には一定のサポートがあるが、高校入学後は環境が一変し孤立する生徒は少なくない。なか国際交流ラウンジは2009年より「外国人中学生・学習支援教室」 を開始し、これまでに卒業生は450人に上る。高校生になってもラウンジを訪れる卒業生たちが引きも切らず、いつの間にかラウンジは彼らが集う「居場所」になっていった。そして 2018年1月、ラウンジ内に「Rainbowスペース」(以下「Rainbow」)が誕生する。運営は「にじいろ探険隊」と自らを命名した7人の高校生、大学生が担った。 「安心できる空間が欲しい」「思いきり自分を表現したい」。毎週月曜日の夕方、そんな彼らの思いが詰まったRainbowに多くの若者たちが吸い寄せられていった。どんな展開になって いくのだろうか。学習支援教室の卒業生たちが気軽に訪れおしゃべりが出来るような「居場所」になってくれればいい。周囲は最初そう思っていた。 【Rainbowその1 自己表現の場】 ところがRainbowは最初からフル加速で突っ走る。これまで溜め込んだエネルギーを放出させるかのように、次々と創造的な活動を展開していった。ディベート大会、演劇大会、 スポーツ大会など、誰に言われたわけでもないのに言い出しっぺが先導し、企画を実現させていった。 【写真:自らのストーリーを綴るRainbowのメンバー(中区多文化フェスタ)】 【Rainbowその2 自助活動~仲間同士で助け合う】  探険隊の広報誌『にじいろ探険記』」の創刊号「1年経った今、隊員の想い」のコラムには、「これからは他の若者たちもサポートしたい」「私たちは後輩たちのために何かが出来る と確信した」といったコメントが並んでいる。「後輩のために頑張る」。これもRainbowに集う若者たちに共通した思いだ。ラウンジで開催される外国ルーツの小学生を対象とした 「小学生夏休み宿題教室」は、サポーターをRainbowに集う若者たちが務めている。彼らは時に厳しく、時に優しく後輩に接する。お兄さん、お姉さんの言うことをきちんと聞いている わが子の姿に、家庭や学校では見たことがないと引率した保護者は一様に目を見張る。Rainbowの母体である中学生学習支援教室でも、現在活動中の25人のサポーターのうち約半数は 卒業生のRainbowのメンバーが占めている。「後輩の面倒をみる」という彼らの強い思いは徐々に浸透してきている。 【Rainbowその3 社会貢献活動】  ところで近年、外国人集住地域では、「ゴミ出しのルール」「騒音」等をめぐり地域社会と外国人の摩擦が顕在化してきている。「文化の壁」「言葉の壁」が障壁になり、両者の円滑な コミュニケーションが取れないことから、ラウンジが地域に入り両者の「橋渡し役」を担い始めた。外国人が日本社会を理解するため「生活上のルール」「町内会への勧誘」等のチラシ、 ポスターの外国語への翻訳、お祭りや防災訓練への参加PRチラシの翻訳、当日の通訳のサポートである。  そこで外国ルーツの若者たちの出番である。彼らの多くは日本語の壁に苦しみながらも、生活言語であれば日本語と母語の複言語を用いて、翻訳、通訳の役割を何なくこなしてしまう。 何より学校生活で日本文化にも触れている。親の世代は「文化の壁」「言葉の壁」が大きく立ちはだかったが、「複文化」「複言語」を体得した子の世代は外国人と地域社会の「架け橋」に なりうる可能性を秘めている。 【写真:地区防災訓練で通訳を担うRainbowのメンバー】  中区役所の調査によると、区内の日本人の年齢構成のピークが40歳代後半であるのに対し、外国人は20歳代前半だ。高齢化が進む地域では、地域活動の担い手不足が深刻だ。地域行事 にボランティア通訳として派遣されるRainbowの若者たちは主に高校生、大学生が中心だが、役割は通訳だけにとどまらない。事前準備から後片付けまで、地域住民とともに汗を流す。 高齢化が進む地域では、喉から手が出るほど若者の担い手が欲しい。一方で外国ルーツの若者も地域行事に参加することで日本社会の理解も進む。  なにより地域の外国人にとっても同国人の存在は心強い。ある地域の餅つき大会では、何をしているのだろう?と恐る恐るのぞき込む外国人に、「どうぞ中に入って楽しんでいって ください」と母語で語り掛けるRainbowの若者たちは頼もしい存在だ。その他にも、横浜市中消防からの依頼で中国語版の火災防止災防止啓発ビデオの制作や、中区のマリンFMの防災 情報の多言語版ナレーションに協力するなど、社会貢献活動は多岐に渡っている。彼らの活動に深い理解を示し活躍の場を提供してくれる中区役所の存在も大きい。 【写真:啓発ビデオの制作現場】 【外国人と日本社会の架け橋になる】  Rainbowの活動は4年目に入ったが、やはり中心は自己表現活動である。2019年秋。冒頭のA君の小説をベースに映画「向陽而生~私らしく生きること」が完成する。ここには 彼らの来日に至る経緯、来日してからの苦悩、そして未来が描かれている。さらにはアニメーション「明日あなたはどう生きたい」、映画「恋がしたい」の制作など、彼らの表現 活動はとどまるところをしらない。 外国人と日本社会の懸け橋を担うRainbowの若者たち、彼らの役割りはどんどん大きくなっていくに違いない。 【写真:なか国際交流ラウンジ・にじいろ探検隊】